エレクトロニクス産業は半導体デバイスにより支えられています。ナノテクの進歩で線幅が10ナノメートルクラスの集積回路も出てきました。これらの半導体は工学上重要であるのみならず、物理を研究する上でも格好の舞台を提供してくれます。ナノスケールの厚みの半導体薄膜やナノスケールの半導体構造ではデバイスサイズが電子の波長の大きさと同程度になり、量子効果が顕著に表れ、新たな物理現象が出現します。
当研究室では、このような半導体量子構造における新しい物性を相関をキーワードに研究しています。二次元系ではキャリアのもつスピン、軌道、さらに谷自由度などの制御により多彩な量子ホール効果が出現します。二次元系が二層近接して重なった構造では、キャリアが上の層を選ぶか下の層を選ぶかの自由度が加わることで、さらに豊かな相互作用が見出されています。一方で、半導体低次元構造に特徴的な物理現象の探索も進めています。量子細線構造(量子ポイントコンタクト)は半導体ナノ構造の基本になるものであり、GaAs(ガリウムひ素)系、InSb(インジウムアンチモン)系を中心に様々な量子ポイントコンタクト構造の作製とその物性研究を進めています。
分数量子ホール効果は極めてクリーンな二次元系ではじめて観測される量子効果ですが、この領域ではキャリア相関の影響がさらに強くなります。最近では通常は表に出てこない半導体構成原子の持つ核スピンが大きく影響する現象も明らかになりました。この研究は、抵抗で検出する高感度NMR、核スピンをモニターとした電子のスピン状態の研究、ナノデバイスを用いた核スピンのコヒーレント制御などの成果に結びつき、この分野で、我々の研究グループは世界をリードしています。さらに、電気的手法のみならず、光学的手法を用いた核スピンと光の新しいインターフェイスの創造にも注目しています。核スピンは化学、医学の世界ではNMR、MRIとして広く用いられており、これを固体物性に応用することは核スピンを含む新しいスピン研究に道を拓くものとして期待されています。
これらの物性の解明には、抵抗などのマクロな測定に加えて、ナノプローブを用いたナノスケールでの理解も不可欠になります。当研究室では、半導体量子構造の局所的な性質をナノプローブを用いて直接観測することにも力を入れており、電気的に測定する走査ゲートタイプのナノプローブが希釈冷凍機温度で動作しています。半導体量子構造版MRIも実現されています。